森林積雪中の微生物生態系
概要
冬季に大量の降雪を有する日本の気象的特徴から、積雪が長期間にわたり厚く堆積していることが森林をはじめとする生態系に大きな影響を与えています。積雪は水源、外界との物理的遮断(土壌の保温)、化学物質の保持などが重要であることが知られている一方で、積雪の中にさまざまな微生物が生息し、物質循環にも影響を与えうることはほとんど知られていません。
微生物が積雪中で増殖する現象は、融雪期に森林や高山帯で色素を持った緑藻類のブルーム(彩雪)として認識され、環境DNA解析などの結果、藻類以外にも共生するバクテリアや寄生する菌類、これらを捕食するクマムシやワムシなどの小型動物などからなる完結した生態系であることが理解され始めてきています。
彩雪の中でも赤い色素を有する緑藻類のブルーム(赤雪)は、開けた高山帯の雪渓に発生することが多いため非常に目を引きますが、森林内に増殖する緑の色素を有する緑藻類のブルーム(緑雪)は色味が赤雪と比べて鮮やかではなく、森林リターに覆われていて見えにくいことから顕著ではありません。そのため積雪域にある北海道大学の研究林においても、その存在はこれまで全く認識されてきませんでしたが、クロロモナス属の緑藻やヤマクマムシ属のクマムシなどが生息していることが予備調査で明らかとなり、積雪域の森林において極めて広範囲で発生している現象である可能性が高いです。また一次生産者と分解者を含む一つの生態系が成立していることから、融雪期の森林物質循環に少なからず影響を与えていると考えられます。
そこで森林内の緑雪現象が日本全国の積雪域森林において発生しているのか、また発生しているとしたら生息する緑藻類および共生する微生物群集に地域差があるのか、を調べることを目的として調査を行っています。
フィールド
苫小牧研究林、北海道大学の研究林、全国の大学演習林(予定)
関連した成果
北アルプスの雪渓の赤雪の色素と遺伝子系統:遺伝子解析を担当しました。『血のように赤い』と命名されているSanguina属の藻類が多かったです。